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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)3153号 判決

控訴人 茂野久次 ほか一名

被控訴人 日本電信電話公社

代理人 中村均 ほか七名

主文

控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一  控訴人らが被控訴人公社の職員で、全電通労組新潟県支部の専従執行委員であつたこと、全電通労組が昭和三六年春闘の一環として、同年三月一六日全国五九ヶ所の電報電話局等を拠点局所とし、いわゆる三・一六闘争すなわち始業時から午前一〇時まで全組合員参加の勤務時間内職場大会を開催したこと、被控訴人は、控訴人らが右拠点局所の一つである長岡電報電話局での三・一六闘争の実施に関連してとつた行動を理由として、同人らに対し同年三月二五日公労法一八条による解雇の意思表示をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

第二  三・一六闘争に至る経緯と同闘争の概要

一  全電通労組の構成とその運営

全電通労組の構成とその運営については、原判決理由第二、一(原判決九四丁裏七行目から九五丁裏一二行目まで)に説示されているとおり認められるので、これを引用する。

二  三・一六闘争前における被控訴人公社と全電通労組との労使関係

三・一六闘争前における労使関係は、<証拠略>により、概要次のとおりに認められる。

電信電話設備の拡充、業務の自動化機械化を中心とする公社の合理化事業は、第一次五か年計画(昭和二八年から三二年)中途の昭和三〇年頃から開始され、以後盛んに行なわれることとなつた。これに対し、全電通労組は、合理化は強制的な配置転換、職種転換及び首切り等の労働不安を起すばかりでなく、要員不足による勤務時間の延長、諸休暇の制限等の労働条件の低下並びに要員不足、作業方法の変更等に伴う労働密度の増大を招くという認識の下に、反合理化闘争を組織し、その要員問題に関する闘争目標は、当初の労働協約の締結とその完全な実施(昭和三〇年)から、設備計画等の事前協議、臨時作業員の首切り反対(昭和三二年)、勤務時間の短縮、要員獲得(昭和三二年以降)、標準作業量、定員算出率等の協議要求(昭和三三)、さらには本件昭和三六年春闘における局所別要員配置等に関する協約の締結要求に発展していつた。これらの全電通労組の諸要求の基本には、合理化に伴う労働条件の変化の中で組合にとつて主要な問題は労働不安と労働強化であるが、それは究極的には要員問題に集約される。そして要員に集約される労働条件は、勤務時間、諸休暇などの労働時間と、労働密度作業方法との二つの側面があり、前者の改善、すなわち勤務時間短縮は、首切りを阻止し雇用を拡大して労働不安を除去し、技術革新の進展に伴う複雑な形の労働強化や疲労から労働者を守り、労働者の余暇を増大し文化生活を高める積極的意義をもつが、要員の拡大をともなわない時間短縮は徒らに労働密度を増大させることになるから、特に技術革新による作業方法の急激な変化の下にあつては、標準作業量、定員算出基準等を明確にしたうえでの要員が併せて確保されねばならないという考えがあつた。

これらの全電通労組の要求に対応して、公社と労組の間には、昭和三〇年一二月一一日勤務時間、年次有給休暇、特別休暇、休職、配置転換等に関するいわゆる五大労働協約が締結され、次いで昭和三二年一一月三〇日「合理化の進展に伴う労働条件等に関する基本的了解事項」、「計画の協議に関する覚書」が締結されると共に、「配置転換に関する協約」の改正が行なわれた。これらの協約によつて、公社が合理化を実施するにあたつては、職員の首切りのごとき事態を招来させないことが約束され、公社は、要員に関係のある設備計画等については計画を変更できる段階で組合に提示協議し、また合理化によつて配置転換をする場合には、原則として実施予定の六か月前までに配置転換計画を組合に提示説明し、さらに現実に配置転換させる者に対しては、勤務地手当の増額、着後手当の増額ないしは住宅の確保等、配置転換に伴う不利益を軽減する措置を講ずることとされた。そして昭和三五年四月の春闘妥結にあたり、「第二次五か年計画実施にあたつての基本的了解事項」が締結され、公社がさらに一層賃金水準の向上に努力し、勤務時間の短縮を漸進的に実現することが約束されたが、要員配置に関する協約は、管理運営事項であつて団体交渉の対象とすべきではないとする公社の態度は変らず、全電通労組は、右協約の締結を主要な目標の一つとして昭和三六年春闘に臨むこととなつた。

以上のとおり認められ、その経緯の詳細は、原判決理由第二、二(九五丁裏一三行目から一〇二丁裏四行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。

三  三・一六闘争の一般的概要とその特異性

(一)  三・一六闘争の概要

全電通労組の昭和三六年春闘における要求項目の決定、春闘体制、要求に対する回答、要員協約を中心とする交渉経過、中央本部の実力行使指示、交渉決裂までの概要は、次のとおり訂正するほか、原判決理由第二、三、(一)の説示(原判決一〇二丁裏六行目から一〇八丁表一〇行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

原判決一〇四丁表三行目の「できない」から四行目の「回答をした」までを、「できない。しかし、公社は、要員事情のいかんにかかわらず、今後も所定の労働条件が確保できるよう配意する、などの回答をした」と改める。

(二)  三・一六闘争の特異性

三・一六春闘の特異性については、次のとおり付加するほか、原判決理由第二、三、(二)の説示(原判決一〇八丁表一一行目から一〇九丁裏一行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

控訴人らは、具体的な戦術を決定するうえで県支部の果した役割は、形式的にも実質的にも重要なものではなかつたと主張するけれども、<証拠略>によれば、長岡局と同じく信越通信局管内の拠点局とされ、派遣中闘の意を受けた地方本部役員が指導にあたつた長野県の諏訪局においては、前夜からピケ隊が局内に入ることはなく、三月一六日朝局前にピケツト・ラインが張られたが管理者は自由に出入でき、時間内職場大会も構内でなく別の場所で行なわれるなど、長岡局とは著るしい差異が生じたことが認められるのであつて、そこに県支部の自主的な判断に基づく手段方法の具体化の余地があつたことは明らかであつて、右の控訴人らの主張は採用できない。

第三  長岡電報電話局における三・一六闘争の状況

一  指導体制の確立

本件争議における新潟県支部を中心とする指導体制の確立については、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由第三、一の説示(原判決一〇九丁裏七行目から一一二丁裏一一行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

1  原判決一〇九丁裏九行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を加え、同行の「<証拠略>」を「<証拠略>」と改め、一〇行目から一一行目にかけての「<証拠略>」を「<証拠略>」と改める。

2  原判決一一一丁表六行目の「被告公社側が」から九行目の「ストツプすること、」までを、次のとおりに改める。

「業務阻害の効果を確実なものとするため、当局側が対抗措置として集めてくるものと予想される長岡局以外の管理者の入局及び電話交換室への入室を阻止すること、」

3  原判決一一一丁裏八行目の「ついで、」から一三行目の「確認した。」までを、次のとおりに改める。

「ついで、三月一五日午後五時ころから、当時長岡局に配置されていた斎藤地方本部執行委員、島名県支部書記長、八木県支部執行委員と長岡分会の執行委員二名を除く全員とで、長岡局内の組合分会事務室で現地闘争委員会を開き、前日の新潟での会議の決定事項を確認し、応援管理者の通行阻止のため動員した組合員を局内に待機させること、長岡局の管理者の通行は自由に認めること等を決定し、さらに同日午後一〇時ころ右組合分会事務室に、大野中闘以下控訴人らを含む闘争委員全員が集つて会議を開き、同日午後七時四五分以後の長岡局内における交換室入室阻止の状況等について報告を聞き、その後も前日の新潟での会議で決定した方針の下に具体的行動をとることを確認した。」

4  控訴人らは、本件争議の具体的戦術を決定する会議に出席しておらず、積極的な役割を果すべき機会がなかつたと主張するけれども、本件争議の具体的戦術が決定されたのは、控訴人らが主張する三月一三日の会議ではなく、三月一四日の会議であつたことは、<証拠略>によつて明らかで、控訴人らも原審昭和四四年三月一八日付第一五準備書面第一、一において認めていたものであつて、この認定に反する当審証人水品雄作の証言、当審における控訴人両名の本人尋問の結果は措信することができない。

二  公社の実力行使対策

本件争議に対する公社の対策については、次のとおり訂正するほか、原判決理由第三、二の説示(原判決一一二丁裏一二行目から一一五丁表九行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

原判決一一四丁表四行目の「通信施設自体」から五行目の「おそれがあるとして、」までを、次のとおりに改める。

「通信施設の火災防止のため電話回線のヒユーズが飛ぶこととなり、争議が終了しても多数のヒユーズをつなぐため通信機能の回復に支障が生じるおそれがあるとして、」

三  組合のピケツテイングによる管理者の入局入室阻止

(一)  局内の状況

本件時間内職場大会前日の三月一五日午後八時ころから右大会が終了した三月一六日午前一〇時ころまで、組合側が長岡局電話交換室への応援管理者の入室を阻止した状況等局内の状況は、次のとおり訂正するほか、原判決理由第三、三、(一)の説示(原判決一一五丁表一一行目から一二一丁裏九行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

1 原判決一一五丁裏二行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>、」を加え、四行目の「<証拠略>、」の次に「<証拠略>」を加え、五行目の「<証拠略>」を「<証拠略>」と改め、七行目の「右各証拠」の次に「<証拠略>」を加える。

2 原判決一一六丁裏一一行目の「(もつとも、」から一一七丁表一一行目の「わけではない。)」までを、次のとおりに改める。

「控訴人らは、組合側が終始話合の態度をもつて平和的に事態に対処する姿勢を示し、公社側に対し話合の申し入れをしていたのに、公社は、右申し入れをすべて拒絶して管理者が一団となつて体当りしてきたのであつて、公社側の行動は、真に電話の疎通を目的とするのではなく、電話の疎通が害されたという外形をつくり、あわせて弾圧の手がかりとするための混乱をひき起す挑発行為であつたと主張するけれども、公社側の行為に挑発の意図をうかがわせる事実を認めることはできず、前記認定のとおり組合側においては、三月一六日の時間内職場大会による業務阻害の効果を確実なものとするため、管理者の入局入室阻止の方針を決定し、そのために前日夕刻から組合員を集めピケツト・ラインを張る準備を整えていたのであり、後述のとおり管理者らと身体と身体とがぶつかり合つても実力により究極的にその通行を阻止する建前で、職場大会終了時刻まで交換室へ至る廊下階段を多数の組合員によつて占拠し、他局管理者の通行を阻止したものであつて、控訴人らの右主張は採用することができない。」

3 原判決一一七丁裏一二行目の「組合員約二〇名くらいが」から一一八丁表一行目の「引きかえした。」までを、次のとおりに改める。

「組合員約二〇名くらいが覆面をしたまま新潟電話局第一運用課長平野善徳らを取りかこむようになつたので、同人らは恐怖感におそわれ、入室を断念して引きかえした。」

4 原判決一一八丁表一〇行目の「互いにスクラムを組み」を削り、一一八丁裏一行目の「そのうち」から四行目の「引き揚げた。」までを「結局管理者らは入室できないまま引き揚げた。」と改める。

5 原判決一一八丁裏五行目の「そこで、」から一一行目の「戻つた。」までを、次のとおりに改める。

「公社側は、局長室隣りの事務室に戻り、交換室に入室する方法について協議していたところ、斎藤地方本部執行委員と島名県支部書記長とが入つてきたが、伝田新潟通信部次長が「公社の方で打合せを行なうので出てくれ。」と言つたので、両者の間では結局何らの話合も行なわれなかつた。」

6 原判決一一九丁表九行目及び一二行目の「スクラムを組み」を削り、同裏二行目の「引き揚げた。」の次に、次のとおり加える。

「右押し合いの際、島名県支部書記長は、ピケ隊の先頭に立つてこれを指揮し、伝田新潟通信部次長に対し「手を出して何が悪い。いくらでも出してやる。」などといつて数回同人の胸や腹を突く暴行を加え、また平野新潟電話局第一運用課長に対しても同様に胸や腹を突く暴行を加えた。

7 原判決一一九丁裏七行目の「、ならびに」から九行目の「通告した。」までを、次のとおりに改める。

「を通告し、組合側に何か言うことがあるかと尋ねたが、伝田新潟通信部次長及び太田長岡局局長は、同人らの過去の経験からして話合によつて違法状態を解決することができなかつたことから、そのまま話合に応ずれば組合側の違法行為を肯認することとなるおそれがあると考え、これに答えなかつた。」

8 原判決一二〇丁表一一行目の「入室阻止の態度」の次に「及び後記認定の宿明勤務者の職務放棄の事態」を加える。

9 原判決一二一丁表三行目の「管理者らを階段の方へ押し返えし、」を、次のとおりに改める。

「島名県支部書記長及び控訴人茂野は、伝田新潟通信部次長らを突き押すなどしながら、他の組合員と共に管理者らを階段の方へ押し返えし、」

(二)  局外の状況

三月一六日午前零時ころから本件時間内職場大会終了の午前一〇時ころまで、組合側が長岡局構内への管理者の入居を阻止した状況等局外の状況は、次のとおり訂正するほか、原判決理由第三、三、(二)の説示(原判決一二一丁裏一〇行目から一二六丁裏四行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

1 原判決一二一丁裏一二行目の「<証拠略>、」の次に「<証拠略>、」を、一二二丁表七行目の「右各証拠」の次に「<証拠略>」をそれぞれ加える。

2 原判決一二四丁裏二行目の「しかして、」から六行目の「者などあつた。」までを、次のとおりに改める。

「しかしてその間、八木県支部執行委員、島名県支部書記長及び本件争議を支援していた大滝新潟県労働組合協議会副議長は、先頃まで組合の十日町分会長であつた村松電報電話局業務課長の田口光春に対し、「お前だけは勘弁ならん。」などといつて同人のオーバーの襟をつかんで引つ張るなどの暴行を加え、田口を救おうとした新潟通信部長岡駐在所機械工事課長本田末作に対し、島名は胸部を押して背後の雪壁に押し付けるなどの、大滝は肩を突くなどの暴行を加えた。」

3 原判決一二六丁表四行目から五行目にかけての「引き揚げた。」の次に、次のとおり加える。

「その際、大滝は、新潟通信部計画課長の半田重雄に対しのど輪攻めにしながら雪壁に押し付ける暴行を加え、村上電報電話局運用課副課長の清滝嘉策に対し首に右腕を巻きつけ、その後左足を両腕でかかえあげ引つ張るなどの暴行を加えた。」

4 原判決一二六丁裏四行目の「原告」を「被控訴人」と改める。

四  勤務時間内の職場大会

三月一六日午前七時四五分ころから午前一〇時ころまでの勤務時間内職場大会の状況等は、原判決理由第三、四の説示(原判決一二六丁裏五行目から一二七丁表五行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

五  宿明勤務者の職務放棄

<証拠略>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する<証拠略>は、いずれも措信することができない。

三月一六日午前四時三〇分ころ、本田屋旅館にあつた公社側管理者約六五名が長岡局構内に入局する目的で同旅館前に集合したことは、前記認定のとおりであるが、これを察知した組合側は、長岡局前のピケツト・ラインを強化するとともに、局内の管理者の通行を阻止する指令を出し、前述のとおり伊豆野長岡局電話監査課長及び布施同局運用副課長らは用便後交換室へ帰ることさえ阻止される状態となつた。そして午前四時五〇分ころ本田屋旅館からの管理者が局前に着き局前が騒しくなるとともに、交換室内の組合側説得隊責任者であつた控訴人近藤は、室内にいた河内長岡局市外運用課長に対し、公社側が異常な行為に出るようであるから、対抗手段として宿明勤務者を就業させない、午前五時から交換要員は零となるがあなた方が仕事をするについてはとやかく言わない旨通告した。その頃交換室内にいた交換手は三名で、午前五時から休憩が与えられることとなつており、それらの交換手が休憩に入るのと入れ替りに、午前零時から仮眠に入つていた交換手四名のうち二名が午前五時から交換作業にあたり、午前五時一五分から残り二名うちの一名が加わつて三名となり、午前五時三〇分からは、さらに右の残りの一名及び午前五時から休憩に入つていた右三名と午前一時から仮眠に入つていた交換手九名が交換台に着いて合計一六名で交換作業にあたることとなつていた。しかし、午前五時休憩に入る交換手三名が退室した後は、控訴人近藤の通告どおり交換手は入室せず、局外において公社側管理者が入局を断念して引き揚げた午前六時ころ、一六名の交換手全員が一斉に鉢巻をして入室してくるまで、室内にあつた長岡局の管理者四名で交換作業を行なつた。そして、午前五時すぎ右の事態の報告を受けた太田長岡局局長は、ただちに交換室へ赴き事態を確認のうえ、水品県支部委員長に対し抗議したが、同人は公社側が挑発しないならば交換手を勤務させると答え、局長の申入れに応じなかつたのであつて、右宿明勤務者の職務放棄は、水品、控訴人近藤らが交換手をあおり、そそのかして実行させたものである。

以上のとおり認められる。控訴人らは、被控訴人が本件解雇後二年を経過した昭和三八年四月になつてはじめて右の職務放棄の事実を主張しだしたのであり、それまでは問題とされておらず、また当日宿直の交換手が処分されておらないのは、本件が公社の捏造であることの証拠であると主張する。しかし、右職務放棄の事実は、当日又は翌日作成された<証拠略>あるいは解雇の頃作成された<証拠略>に記載され、また<証拠略>によれば、組合側においても三月一九日に本件当日宿直の交換手について勤務状況を調査したことが認められるのである。そして、控訴人茂野らに対する刑事事件においては、<証拠略>によると昭和三七年一二月一〇日の第五回公判期日における証人伝田今朝春の証言の中で、職務放棄の事実にふれていることが認められるのであつて、本件の解雇当時から問題とされることがなかつたとは、とうてい認めることができない。そして、<証拠略>によれば、前記時間帯において交換台に着くべき交換手が零となつたのは、明らかに控訴人近藤ら組合側の働きかけによるものであるが、交換手の仮眠休憩時間の実際は、組合員である座席主任の裁量に任された部分が若干あるために、各交換手が義務に反して離席した時間をそれぞれ確定することが困難であつたことと、職務放棄自体が組合の圧力によるもので交換手自身の発意によるものでないことなどが考慮されて、交換手に対する処分が行なわれなかつたものであることが認められるので、この点に関する控訴人らの主張も採用できない。そして、他に前記認定事実を左右すべき証拠はない。

六  業務の阻害状況

組合員全員参加の本件時間内職場大会開催中、組合員が管理者の交換室への入室を阻止したため公社側が電話回線の大部分を切断規制した状況、並びに電信電話の取扱数の減少その他の業務阻害の状況は、次のとおり付加するほか、原判決理由第三、六の説示(原判決一三〇丁表九行目から一三三丁裏一行目まで)のとおり認められるから、これを引用する。

控訴人らは、本件争議当時の長岡市における電話の普及率、市外電話の接続に要する時間、公衆電話が利用可能であることなどをあげて、本件争議によつても国民生活全体の利益が害されていないと主張する。しかしながら、右に認定したとおり、電話交換の最繁時にほぼ二時間半にわたつて、長岡市の市内回線の九割以上が切断規制され、市内電話取扱数は平常の百分の六、市外電話取扱数は千分の一に激減したのであるところ、電信電話は国民が利用できる唯一の高速通信の手段であつて(当時長岡から東京等への市外通話が、特別至急通話扱い等の申込をしない場合接続まで長時間を要したことは、控訴人ら主張のとおりであろうが、そのことは反面で当時の市外通話回線その他の設備で十分応じきれないほど遠距離の市外通話の需要があつたことを示している。)、その性質上これが利用できない場合回復不可能な損害が発生するおそれがあることを考慮するならば、本件争議によつて国民生活全体の利益が害されたことは明らかであつて、控訴人らの右主張は採用できない。

第四公労法第一七条一項及び一八条の合憲性

控訴人らは、公労法一七条一項は電々公社職員につき憲法二八条の保障に反して全面かつ一律に争議権を奪うものであるから違憲無効であり、公労法一八条は一七条一項の有効性を前提とするものであるから無効であると主張する。しかし、公労法一七条一項が合憲であることは、最高裁判所の判決により一貫して示されているところであり、郵政省職員について最高裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(いわゆる名古屋中郵事件最高裁判決)が示した、勤務条件決定の面における憲法上の地位の特殊性、市場における抑制力の欠如等の社会的経済的関係における特殊性、職務の公共性、代償措置の整備等の理由は、そのまま電々公社職員にその担当業務等の別なく妥当するものであるから、職員の争議行為の一切を禁止し、その違反に対する制裁措置として職員の企業外への排除を定めた公労法一七条一項及び一八条は、憲法に違反しないものと解されるのであつて、控訴人らの主張は採用することができない。

第五長岡電報電話局における三・一六闘争と公労法一七条一項

一  要員協約締結の団体交渉拒否について

控訴人らは、本件争議は、公社が全電通労働者の団結権、団体交渉権を違法不当に侵害し、要員協約締結の団体交渉を一方的に拒否したことに対し、自衛の立場から行なつたもので正当であると主張するので、検討する。

まず、要員協約締結に関する組合の要求と公社のこれに対する態度についてみると、いずれも<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

すなわち、全電通労組が締結を要求した協約案の内容は、「公社の各機関の要員は、昭和三二年四月改定定員算定要領に基づき算出した人員数を最低として配置する。算定要領に明示されていない業務については、算出方法及びそれに基づく最低配置人員数を労使が協議決定する。算定要領による人員数では実行服務の編成ができない場合はそれを解決するに要する人員数を含めて最低配置人数とする。施設、設備又は作業方式の変更、作業量の増減及び取扱業務の改廃の事由で要員数を変更する場合は労使が協議決定する。算定要領を変更する場合は労使が協議決定する。」というものであつて、算定基準及び配置人員数の両面にわたつて公社と全電通労組とが協議決定することを求めたものであつた。そして、このような協約の締結を求める組合の基本的な考え方は、前記第二、二に認定したとおりであつた。これに対し、公社側は、組合から定員算出率等の協議要求があつた昭和三三年当時から、(1)定員及び現実の配置人員数は勿論その算出基準は、処理すべき業務量、設備の能率等の諸要素から経営者である公社が独自で決定すべきであつて、まさに公労法八条但書にいう管理運営事項である、(2)公社は、毎年の業務量に見合つて真に必要とする増員を行つており労働強化となるような配置を行なつておらず、現状では労働密度は労働条件として協議する必要はない、(3)労働協約、覚書等を遵守できない場合は、公社は、責任をもつて措置を行なうが、その具体的措置の内容は、職員の服務の差しくり、共通服務、局内の応援、超過勤務、臨時作業員の雇傭、業務の請負、配置転換、不当な休務の抑制その他さまざまであつて、要員の増加に限られない、(4)要員の配置数によつて労働条件が確保されない場合は、労働条件確保の面から労働条件について団体交渉に応じる、(5)また要員のみが労働条件を確保できない唯一の原因である場合には、増員についても団体交渉に応じる用意がある、という基本的な態度を示した。そして、前記組合の求める協約について、公社は、公社が昭和三二年に制定した「改定要員算出要領」(いわゆる白表紙基準)の協約化を求めるものであるが、右白表紙基準は本来公社が毎年の増員数を通信局に令達する際に参考として用いる尺度にすぎず、個々の局所における現実の要員配置を決定するための基準ではなく、協約化すること自体適当でない、労組の団体交渉の要求は、労働条件の不確保という事態がないのに、必要のない要員配置等の協約化を求めるもので、管理運営権を侵害するおそれがあるから応じられないとした。公社は、右のように団体交渉を拒否しながら、合理化計画の円滑な実施のためには全電通労組との意思の疎通をはかることが必要であるとして、次のように協議、説明等を行なうこととした。すなわち、まず標準作業量については、昭和三二年一一月の「合理化の進展に伴なう労働条件等に関する基本的了解事項」において、これを変更する場合本社から中央本部にあらかじめ説明することが約束された。要員についても、右基本的了解事項において要員に関係のある設備計画は計画の変更可能な段階で協議することが約束され、要員数自体については、昭和三一年六月の団体交渉で服務線表協議の際服務線別要員配置数を協議の対象とすることとし、昭和三二年一一月の「職員の配置転換計画の協議に関する覚書」において配置転換人員数を協議の対象とすることとした。そして定員については、昭和三五年秋闘の際通信局別定員を本社から中央本部に説明したが、これを昭和三六年四月二四日の団体交渉の際、今後も継続して説明することを確認した。以上の事実を認めることができる。

そこで考えるのに、そもそも公労法八条が労働組合に対し広く労働条件に関する事項について団体交渉権を付与しながら、その但書において公共企業体等の管理運営に関する事項を除外したのは、労働組合が団体交渉及びその結果である労働協約を通じて、労働条件向上の必要の限度を越えて企業の管理運営に容喙し、公共企業体等の正常な運営を最大限に確保するという公労法一条の目的に背く事態が生じないようにすることにあるものと解される。そうだとすると、労働組合が団体交渉を求めている事項が一応公共企業体等の管理運営に関するものであつても、その実は管理運営の結果生じる労働条件を問題にしている場合が少くないから、形式的な判断で団体交渉を拒否してはならないことは勿論であつて、一般には、交渉途中において管理運営事項そのものをも問題にしていることが判明した時点で、団体交渉により解決すべきでないとしてこれを交渉の対象から除外するのが相当な取扱いであるといつてよい。しかしながら、労働組合が締結を求める労働協約の内容それ自体が労働条件に関するものでなく、あるいは労働条件向上の必要の限度を越えており、しかも公共企業体等の管理運営に容喙することを内容とするものであるときは、公共企業体等がかかる労働協約を締結しそれに拘束される事態となると事業の正常な運営は確保されないこととなるから、公共企業体等は労働組合との団体交渉に入ることをも拒否することができると解するのが相当であつて、かかる団体交渉の拒絶をもつて違法とすることはできない。

そこで前記の協約案の内容をみるに、控訴人らは、まず、要員の配置数と労働の密度とは盾の両面のような密接な関係にあるところ、労働の密度は労働条件の一つであるから、要員の配置数それ自体も労働条件に関する事項として団体交渉の対象とすることができるのであつて、全電通労組が前記の協約案により労働協約の締結を求めたのに対し、公社が団体交渉を拒否したのは違法であるという。しかしながら、労働者各個人の能力その他の諸条件のもとにある個別的な労働関係において、労働の密度を労働条件の一つとして取り入れ、これによつて労働者を規制することには多大の疑問があるばかりでなく、労働の密度を労働条件として取り入れることは、各人がそれぞれの長所を伸ばし短所を補いあつてその能力を発揮し、企業の全体としての効率的な運営に寄与するという事業の基本的なあり方に合致するとは思われないから、労働の密度がいかなる程度のものであれそれが労働条件に該当し、ひいては要員の配置数も団体交渉の対象となるとする右の見解には、たやすく賛同することはできない。もつとも、事業が常時繁忙にみまわれ、通常人の能力をもつてしてはまかなえないような作業量の負担を強いられているなどというような場合は、そのこと自体が労働条件に関する事項として団体交渉の対象となることは勿論であるが、その場合において労働組合が要員の配置を求めるのに対し、公社が企業経営上の観点から要員の配置に代わる措置をとることは可能であつて、公社が組合の求める要員配置の措置をとらないからといつて、組合の団体交渉権を否定したことにならないのはいうまでもない。すなわち、要員の配置数と労働の密度とは盾の両面の関係にあるといい難いのである。以上の検討によつて明らかなとおり、要員の配置数と労働の密度との関係を根拠とする控訴人らの主張を採用することができないものである。

次に控訴人らは、勤務時間、諸休暇の取得等の労働条件を確保するために要員の配置が必要であるとして、要員の配置数自体についても協約を締結できるという。しかしながら、これらの労働条件について締結された労働協約の実施について問題があるときは、労働組合は公社に対し必要な措置を求めることができるが、この場合でも、公社は企業経営上の観点から要員配置に代わる措置をとることができることは前述の場合と同じであつて、これらの場合に労働組合があくまでも要員の配置を要求し他の措置を排除するのは、労働条件向上の必要の限度を越えて公社の管理運営に容喙するものといわねばならない。この点に関する控訴人らの主張も採用するに由ないものである。

しかして、本件の当時公社全体として要員不足があり、労働条件の維持が困難であつたのかどうかについて検討してみると、<証拠略>によれば、昭和三三年度から三七年度までの第二次五か年計画において自動改式により過員となる交換手は、改式計画を縮少しまたできる限りの転用策を講じてもなお約四〇〇〇名にのぼる見込であつたのであり、自動改式による過員は周辺局で吸収する方式で自動化が進められ、漸次過員が累積した結果、昭和三九年には、退職金を特別に割増して退職者を募集した事実が認められるのであつて、業務量と人員との総体の関係において要員不足があつたとは認められないのである。そして原審で提出された証拠は勿論、当審で取調べた<証拠略>によつても、公社全体として要員不足による労働条件の低下が発生していたとは認められない。

以上のとおり、要員協約の締結は、労働条件向上のための必要の限度を越え、公社の営理運営に容喙するものであつて、法的な拘束力のある協約を締結すること自体によつて公社が経営上の観点からとるべき措置の内容を不必要に限定することとなり、公労法一条の目的とする業務の正常な運営が阻害されることとなるから、全電通労組が個々具体的な労働条件の悪化を理由として当該の事業所における要員配置等について団体交渉を要求したのでなく、全国一律に前記の協約の締結を求めたのに対し、公社が管理運営事項を理由として団体交渉を拒否し、要員に関する種々の問題について前述のとおり労使の協議、説明により意思の疎通を図ることとしたのは、むしろ公労法八条但書の趣旨にそうものというべきであつて、違法とすることはできない。以上の次第であつて、控訴人らのこの点に関する主張は採用することができないものである。

二  本件争議行為の公労法一七条一項該当性

本件争議を組成する各行為が公労法一七条一項に禁止されているいかなる行為に該当するかについてみると、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由第五、二の説示(原判決一四七丁裏一二行目から一五二丁表一行目まで)のとおり認められるので、これを引用する。

1  原判決一五〇丁裏三行目の「後述のごとく」から四行目の「その目的において」まで、同五行目の「とにかく」及び同一二行目の「もつとも、」から一五一丁裏八行目の「いうべきである。」までを削る。

2  原判決一五二丁表一行目の次に、行をかえて次のとおり加える。

「(三) 三月一六日午前五時から午前六時まで、勤務につくべき宿明勤務者全員が、水品県支部委員長、控訴人近藤ら組合役員の指示により職務を放棄したことは、前記第三、五において認定したとおりである。右職務放棄の時間中長岡局の電話交換業務は、室内にあつた同局管理者四名によつて担当され、交換業務に混乱が生ずることは免れた模様であるが、公労法一七条一項にいう業務の正常な運営とは、法規及び契約の本旨に従つた通常の労務の提供がなされていることを前提とするから、右の行為もまた業務の正常な運営を阻害するものとして、公労法一七条一項の争議行為に該当する。」

第六控訴人らの責任

控訴人らの争議行為の実行責任、幹部責任及び共謀責任並びに控訴人近藤のあおり等の行為者の責任については、次のとおり付加するほか、原判決理由第六、一の説示(原判決一五二丁表三行目から一五五丁表二行目まで)のとおり認められるので、これを引用する。

原判決一五五丁表二行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「(四) 控訴人近藤のあおり等の行為者の責任

公労法一七条一項にいう「そそのかし、若しくはあおつて」とは、他の特定又は不特定の職員をして、業務の正常な運営を阻害する行為をなさしめるようにしむける一切の行為を総称するものと解すべきところ、控訴人近藤は、前記第三、五に認定したように三月一六日午前五時から午前六時まで勤務につくべき宿明勤務者全員をして勤務につかせないようにしむけ、現実にもこれらの勤務者が職務を放棄したものであつて、同人は、公労法一七条一項のあおり等の行為者の責任を負うべきものである。」

第七控訴人らの再抗弁に対する判断

一  不当労働行為について

控訴人らの不当労働行為の主張に対する判断は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由第七、一の説示(原判決一五八丁表一二行目から一六一丁裏一二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五八丁裏一一行目の「前掲」の次に「<証拠略>、」を、同行の「<証拠略>、」の次に「<証拠略>、」を、一五九丁表六行目の「<証拠略>、」の次に「<証拠略>、」を、同六行目から七行目にかけての「<証拠略>、」の次に「<証拠略>、」を、同九行目の「<証拠略>、」の次に「<証拠略>、」をそれぞれ加える。同九行目の証人から一一行目の「併せ考えると、」までを「<証拠略>をあわせて検討すると、次の事実が認められ、右証拠中この認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。すなわち、」と改める。

2  原判決一五九丁表一三行目の「県支部傘下の」から同裏三行目の「つぎつぎと締結され、」までを、次のとおりに改める。

「全電通労組は、昭和三三年頃から到達闘争の方針を決め職場の労働運動をすすめたが、そのなかでも新潟県支部傘下の各分会のそれはきわめて活発であつたこと、新潟通信部管内の十日町局、柏崎局、柿崎局、高田局等の自動改式の際には、新潟県支部は各分会を指導して、集団交渉、非協力闘争、改式業務拒否、業務規制闘争、管理者のつるしあげ等の激しい職場闘争を行なわせ、改式に伴う配置転換数、残される要員数等について公社を譲歩させ、また交換手の夜九時帰り等の労働条件についても労働者の有利に解決をみたこと、また新潟県支部は、その他の局においても、女子職員の夜九時帰り、交替準備時間の拡大その他公社本社職員局が職場交渉委員会の団体交渉の対象とすべきでないと指導している事項について、有利な条件を獲得するため、生理休暇、病気休暇及び年次休暇による休務率をあげる運動をすすめる一方、交換手が取扱うコード数を規制し、標準実施法の仕事の速度を身につけるなどの「いそいで仕事をしない」運動を指導し、隣の交換台の仕事をしない等の「余分な仕事を切り捨てる」運動を徹底させるなどして、仕事が残りサービスが落ちる実績をつくり、公社側が要員増をせざるを得ないようにしむけると共に、前記と同様の種々の交渉手段を用いて、職場交渉委員会において前記要求事項につき公社側のいういわゆる「やみ協約」を締結したが、それらの職場協約の内容は、就業規則は勿論中央協約の内容をも上まわつていたこと、そして新潟県下の職場では、交換手の生理休暇取得率は昭和三六年三月に最高の八七・一パーセントに、生理休暇取得者のうち一回に三日以上取得する者の割合が同年四月には三〇・一パーセントにのぼつたが、一部の分会においては組合において組合員の個人別生理休暇消化日数の割当を行なうなどの指導が行なわれたこと、県支部傘下の組合でも水品県支部委員長出身の三条分会での到達闘争は最も激しいものの一つであつたが、生理休暇の取得についても前記と同じ月に、取得率では九三パーセント、一回三日以上取得した者の割合で六六パーセントと他分会を大きく上まわり、また職場協約も昭和三一年ころから各種協約が次々と締結されたこと、」

3  原判決一六一丁表一二行目の「また、」から同裏九行目の「断定することはできない。」までを削る。

二  解雇権の濫用について

控訴人らは、本件解雇は公社が解雇権を濫用してしたもので無効であると主張する。しかし、すでに認定したとおり、本件時間内職場大会は保安要員を零として全組合員を参加させて行なわれた同盟罷業であつて、公労法一七条一項の禁止に明らかに違反するばかりでなく、本件争議において行なわれたピケツテイングは、中央本部の指令を越えて時には暴力を行使するまでして応援管理者の入局入室を実力をもつて阻止することにより、公社業務に徹底的な業務阻害を与えたもので、公労法一七条一項のような制限のない民間企業においてさえも許されない違法な行為であり、さらに本件争議においては中央本部の指令を越えて宿明勤務者の職務放棄さえも行なわれたのであつて、その争議の態様はきわめて違法性が強く、その結果被控訴人公社の業務を著しく阻害し、ひいて国民生活全体の利益を害したものと認められ、前述のとおり控訴人らの実行責任、幹部責任及び共謀責任並びに控訴人近藤のあおり等の行為者の責任は極めて重いことが認められる。以上のような争議の態様程度及び控訴人らの関与の度合責任に照らすと、公社が公労法一八条の規定を適用して控訴人らを解雇したことをもつて、社会一般の通念に照らし過酷であるとか、裁量権を逸脱した処分であるとかいうことはできない。

控訴人らは、解雇権濫用の事由として、上部機関の役員等に対する処分との不均衡を主張する。たしかに、控訴人らの指摘する上部機関の役員等に対する処分は、停職にとどまつたことが認められるが、前述のとおり、本件長岡局における争議では中央本部の指令を上まわる違法な行為が行なわれたのであつて、このような違法性の強い本件争議の企画実行の中心となつたのは実質上控訴人らを含む県支部役員であつて、上部機関の役員の指導は形式的なものにすぎなかつたのであり、争議中暴力行為あるいは違法性の強い実行行為を自から積極的に行ない、又は組合員をあおる等して行なわせた点で、県支部役員の中でも解雇された水品県支部委員長、島名県支部書記長、八木県支部執行委員及び控訴人ら両名の責任は重いものと考えられるから、上部機関の役員等に対する処分との不均衡は認められず、<証拠略>によれば、公社は、本件争議終了後、全国の拠点局における状況を調査し、その中で長岡局のように本部指令等を上まわる争議行為をした局において、実質的にどのような地位にあつてどのような役割を果たし、いかなる責任を負うべきものかなどの観点から、控訴人らと同程度のものとして全国で県支部役員あるいは分会長一六名を解雇相当として処分したものと認められるから、解雇権を行使するについての裁量を特に誤つた等の事情は発見できない。そしてその他控訴人らが解雇権の濫用の事由として主張する事項については、すでにそれぞれの個所において判断したとおり、いずれもこれを認めることができないから、控訴人らの解雇権濫用の主張は、結局採用することができないものである。

第八結論

以上のとおりであつて、控訴人らは公労法一七条一項、一八条に定める事由があつて解雇されたものであり、被控訴人公社との間に雇傭関係はないから、控訴人らが右の雇傭関係が存在することの確認を求める本訴請求は理由がなく棄却すべきものであり、結論において同旨の原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

控訴費用の負担について、民訴法九五条及び八九条を適用する。

(裁判官 渡辺忠之 糟谷忠男 浅生重機)

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